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ぼくの人生最大の病気は、痔ろうでした。
でも、病気の中には、それこそ生死の境を行き来するような病気や、
死んでしまう病気だってたくさんあるわけです。
そのような病気から比べたら、
それこそ遊んでいるようなものだったのかもしれません。
その最初は、痛くて眠ることさえ出来なかったほど。
でも、中に溜まった膿を出して、患部を切り取ってしまえば、
あとはまた肉が盛り上がってくるのを待つだけの毎日なのでした。
こんなことなら、さっさと家に帰って養生していたほうが、
お金もかからなくていいのではと思ってしまうほどでした。
それでも、お医者さんと看護師さんの勧めに従って、
黙って入院していたのは、病気の最初の頃の
痛みが忘れられなかったからでした。
会社の上司も、“この際だからキチット直せ”とのことで、
また、“仕事の方は心配なから”とのことでもありました。
しかし、この一見、思いやりある言葉も、
裏を返せば“お前なんか、いてもいなくても一緒”とも言われているようで、
ウレシイやら悲しいやら、その心境は微妙であります。
とこあれ病気になって思うことは、
何と言っても“人間、身体からだ”というのは、
真実であるということでした。そんなことで、この際、
ぼくは、じっと我慢して、この病気を完治してしまおうと、
そのことばかりを考えておりました。
この入院中に、ぼくはある一人の人物と仲良しになりました。
年はぼくと同年で、しかも同じ病気。
仕事は職人さんでした。
そして、その彼が恋いに落ちたのが、
この病院の受付窓口にいつも座っている女性でありました。
確かに彼女は、この病院に咲いた可憐な花でありました。
彼が言うには、出来れば彼女に花束でも贈りたいのだそうです。
でも、貰ってもらえるかどうか不安でもあるので、
それをぼくに確かめてくれないかとのことでした。
ぼくも、ヒマでしたし、興味も湧いたので、迂闊にもOKしてしまいました。
カーディガンを羽織ったぼくは、
何気ない振りをして一階へと降りていきました。
そして、雑誌を探す振りをしながら、
その彼女の近くへとすり寄っていきました。
色白で端正な顔つき、しかもどことなく清楚な雰囲気が漂っております。
一言で言うと、相当な美人。
成程、これなら、彼が一目ぼれするのも頷けます。
二コッと笑い、“おはよう”と言うと、彼女の二コリとし、
“痔ろうで入院してる山本さんでしょう”と、ぼくに聞くのでした。
“はい”と返事をしてから、何気なく、二・三の会話がすんなりと出来ました。
すると、彼女はぼくに顔を近づけるような身ぶりをし、
笑いながら、小声でぼくに言うのでした。
「実はあたしも、痔持ちなの」
ぼくは、まじまじと、彼女の顔を見つめておりました。
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